アストロスケール、宇宙機再突入が大気圏へもたらす影響調査に関する業界横断的プロジェクト・AIRSイニシアチブを立ち上げ
Astroscale launches cross-industry initiative to investigate the impact of spacecraft re-entry on the atmosphere
2026-06-09
アストロスケールは、宇宙機再突入が大気圏へもたらす影響に関する業界横断的な研究プロジェクト、AIRSイニシアチブ(Atmospheric Impact of Reentered Spacecraft)を立ち上げたことを発表しました。アストロスケール主導で招集されるもので、創設メンバーとして同社とPlanet Labs社(米国)、および英国サウサンプトン大学が参画します。
衛星などが廃棄のために大気圏に制御再突入すると、超高温と大気抵抗などの相互作用で衛星は分解・蒸発します。軌道上の衛星数の急増に伴い、今後、運用終了後に再突入・廃棄される衛星数も増加する見込みです。従来、宇宙環境の持続性に関する取り組みは、宇宙デブリを中心としたものでした。一方、衛星の再突入に伴い蒸発、放出される衛星材料などの化学物質が大気にもたらす影響については、実測が難しく、現在は単純化された仮定に基づく学術的なシミュレーションモデルとなっています。このためその確度や妥当性が充分ではない可能性が考えられます。
AIRSイニシアチブでは、この学術モデルに実機データを組み合わせ、仮定ではなくエビデンスベースの高精度モデルの構築を目指す計画です。AIRSの枠組みでは、衛星メーカーや運用者は、衛星の機密情報を保護しつつ、限定的に材料構成・質量内訳などの基礎的な設計情報を学術研究者と共有することができます。機材配置や再突入データ提供なども事業者の裁量で開示範囲を決めることができる仕組みとなります。アストロスケールは、全体調整と自社宇宙機データを提供。大規模な観測衛星群を運用するPlanet社も宇宙機データ提供で貢献し、サンサンプトン大学は研究面を担当する予定です。
地球低軌道(LEO)に展開される衛星数千機、数万機単位のメガコンステレーション計画や、百万機レベルの宇宙データセンター構想などが次々と発表されています。FCC(連邦通信委員会)は、衛星の宇宙デブリ化防止の観点から、衛星運用終了後の早期の再突入廃棄を要求しています。
一方、今後このような数の衛星を常時軌道上に配置し、再突入廃棄・世代交代ローンチのサイクルをつづけた場合の影響については、懸念の声も上がっています。アメリカ天文学会(AAS)は2024年に、大量の打ち上げと再突入による大気と天文学への影響について、懸念と研究支援を求める発表を行っています。2023年にアメリカ海洋大気庁(NOAA)の研究者達は、高層大気の実測調査の結果、ロケットや衛星由来と考えられるアルミニウムや希少金属などが、成層圏粒子の大半を占める硫酸粒子の10%に含有されるていることを発見した、と発表しています。検出した希少金属の組成比は、宇宙機用の特殊合金と合致しているとのこと。
欧州宇宙機関(ESA)は、DRACOミッション(Destructive Reentry Assessment Container Object)で衛星再突入時の破壊プロセス等を実機観測することを目指しています。小型衛星にカメラやセンサ多数を搭載して再突入を実施し、温度、圧力、変形、分解過程などを計測する計画です。DRACOの衛星本体は燃え尽きますが、衛星搭載のデータを格納した小さい耐熱カプセルは生還し、回収される予定です。DRACOミッションは、2027年に実施予定となっています。
再突入による大気への影響について、すでに金属などの人工物質が一定濃度で検出されていることから、今後は影響の有無を確認するというよりは、どの程度の影響(またはリスク)なのかを評価しようとする動きになると思われます。この流れでAIRSのようなエビデンスモデルの構築や、DRACOミッションのようにまずは事象の定量的な把握が行わる予定です。その後、再突入に関する環境適合性などの規制や政策論議へと発展する可能性もあると考えられます。
【参考】
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【関連リンク】
DRACO (Destructive Reentry Assessment Container Object)
